心臓がふたつあればよかった
鼓動が重なれば時をとめる必要がないから
低音を響かせる空からくるあなたを、うけとめられると思ったから
歯が痛い
鱗を剝がしたい
肉をそぎ落として、骨を切り出して、あなたの心の在りかを探したい
どうにでもできると僕は思った
それが責務であり使命でもあるって母さんが言った
僕はそれを信じなかったけど、父さんも姉さんも兄さんもそうだって言うから、一人で僕は海に出た
まだ歯が痛い
きっと死ぬまでこうなのだと思うとどうにもいたたまれなく
船の上で家族に土下座をして
数年がたち
僕は真っ裸で海の底まで落ちて
そのまま今に至る
血は灰色で、鱗は白い
かつて美しい深緑色だった肉はほとんどなくなってしまって
骨は叩くと折れてしまうくらいだった
それでもまだ歯は痛い
いつになればと思ったが、そのまま眠った
心臓がふたつあればと思った
そうすればこの痛みも消えてくれると信じたい
誰がための祈りはいずこへか消え
心だけが置き去りになって
だれも僕に焚べてはくれないだろう
それでいい
1人で死ぬのは、心地いいんだ
きっとそうなんだ