ガラスの大地

詩や日記を書きます

愛(アウトサイダー)

 たぶん、俺は社会不適合者のことが好きだ。俺自身がそうであるように、彼(彼女)らには世界で生きていく上で決定的な欠落がある。
それは人間性だったり社会性だったり、部屋が汚かったり忘れ物が多すぎたり、大きなことから小さなことまで、社会的に良しとされているものに背を向けている。俺はそんな人間のことを愛しているのだ。

 

 

 おれたちはみな一様に社会の中であがいている。企業に就職した者たちはやりたくもない電話やメールの対応をし、もちろん報連相は苦手で、いつの間にか明日に迫った納期の前に絶望し、己の無力さに涙を流す。俺たちは唇を噛みしめもしない。
そうでないものはインターネットか夜の街に住み着く。昼夜逆転の日々のなかで女は得てして傍若無人に振舞い、男はその靴を舐めている。またはその逆である。俺たちは最も傷つかず最も楽な生き方を選び続けている(つもりだ)。
そんな日々の刹那的な快楽の行きつく先が鬱病であることを理解しているものはいない。得も言われぬ”満たされなさ”に己が満たされていることに気付いたとき、俺たちはすでに病棟にぶち込まれているか、自宅の鴨居に首を吊るして死んでいるから。

 

 

 そんな俺たちの愛おしさとは、自らの歪みと欠落に気付いていない、あるいは目を背けているという点にある。
世界で生きていく上で社会通念上”普通”とされる価値観を俺たちはそれなりに学んできた。それでも働けない人は働けないし、笑えない人は笑えない。
空気を読むこともできなければ、友達の悲しみをすくい上げてくれることもない。それぞれにそれぞれの理由があって、みな正しいと思ったことを実行しているつもりだ。
でも、俺たちは社会に適合できていない。大多数の人間が歯を食いしばって必死こいて生きている中、それらのいろいろを放棄した上で必死こいて生きている。鏡を見てみたらそこにいるのは客観的な視点を排除した愚か者の顔だ。なにもできないくせに自分は普通(一旦あえてそう言う)の人間であると思っているかもしれないが、働くこともできず、やればできるんだって信じて、日銭を稼ぎ、そして酒とたばこに消え、夜に起き朝に眠り、昨日と同じ今日を過ごして呆然とする、そんなものを果たしてまともな人間生活と呼べるだろうか。


 でも、そうして鬱屈とした矛盾を抱えて生きることに命の輝きが見える。たくさんの無駄を孕んだ毎日を過ごしているうえに、まともな幸福が欲しいと願う俺たちの一縷の輝き。無駄を無駄とせずただのうのうと生きていたとして、それがすごく社会通念から外れているのにへらへらとできる俺たちの人間性を幸福と呼ばずになんというのか。

 

 

 

 そもそもズレているほうが面白い。俺がそういった人たちのことが好きなのはそういう意味でもある。
つまり自分の欠落は許すのに、相手の欠落は許さない俺たちのことだ。
理にかなわないこともできるのが人間の要素の一つだとしたら、これこそあまりにも理にかなっていない。でもこれが人間を人間たらしめていると思う。俺たちの欠落を許してくれないか。あなたの欠落を許すから。

まあ、自分には甘くて他人には厳しいやつと実際対面してみると非常に苛立つこともしばしばだが、どうしても嫌いにはなれない。

 

 ・・・とはいっても嫌いなものは嫌いだ。どうしても好きになれない人間はやはりいる。社会不適合とはいえ、暴力を振るったりなどこちらに実害を加えてくるものは近づいてほしくない。端から見たら面白いのはたしかではあるが。
俺は俺に説教してくる人間が嫌いだ。てめーは俺の親か?俺は自分のことを疑わない人間が嫌いだ。自分のことをそこまで信じていられるのなら、もう少し他人に優しくできるだろう?

でも大抵は距離を置けばなんとかなる。モニターの向こうに幽閉してしまえばいい。

幸い令和にはブロックもミュートもあるのだ・・・

 

 

俺は好きな女の子とデートしたあと、かならず関係が悪くなる。どう考えても俺が悪いのは確かなんだが、どこが間違っているのかてんでわからない。
もっとしっかりとしたデートプランを組むべきだったのだろうか。もしかして酒飲んだあとホテルに誘わないのが悪いのか?


一つわかるのは現実の俺は、電子上の俺より数倍面白くない。そもそも好きな女の子の目が見れない。惰弱な精神がなす、ひ弱な男だ。
頼りないのだろう。あれもこれも相手に合わせる癖がある。君と一緒ならどこでも楽しいよって、もしかして君もそう思ってくれていたのかな。
自分に自信にないからそうして保険をかけてしまうのか?君がこれかわいいねってぬいぐるみを見て言ったときじゃあプレゼントしてあげるって簡単な言葉も言えなかった。
手でもつなげばよかったのかな?なんにもわからなかった。

次こそはと、いつも思っている。原因がわからないのなら対策のしようもないのに。笑える話だ。
そして静かに遠ざかっていく君の心を見ながら俺は俺の心を摩耗させて、いつも同じ結末だ。
つまり、失敗するのをわかっているのに特攻する。白黒はっきりさせろって!嫌いなら嫌いって言ってよ!

何度も後悔してきた。でも安心するんだ。想像通りの結果が欲しいだけ。

多分、俺は俺のことしか愛していない。そんな自分のことを憎悪してもいる。

矛盾を孕んだ状況を他人のせいにした。でもそれはもうやめた。

愛とは、恋愛だけではないのだ。

 

 


愛は安心の中に生まれるとどこかで聞いた。
相手のことを想ったとき、なるほどあなたの健やかな笑顔こそが安心の源だったんだと感じられたらいい。
そしてそれをあなたにも与えてあげたいと思う。そのために、俺だけでも、もう少しだけ、己の未熟さと対峙するべきだ。
努力も失敗もすべて俺のものだ。俺は俺のためにしか頑張ることができない。でもそれが、俺が俺自身を愛することが、なるべくしてどこかにいる”あなた"の笑顔につながること願う。
祈りは、最も小さく最も効果的な安心だ。手を合わせ、祈ろう。それが、なるべくしてどこかにいる”あなた"の笑顔につながること願う。