ガラスの大地

詩や日記を書きます

口だけでも。

 

 

 

鏡を見ると俺は実に嫌な顔をしている。
まさに下卑た無知そのもので、まだ見たこともない嫌いな誰かにそっくりだ。
顔を洗って歯を磨いて、一応その顔と決別する。ヒゲを剃って顔に化粧水を塗って。
俺が俺の嫌いな人間にそのまま成り下がらないよう誤魔化すために。

 

俺は独善的な人間が嫌いだ。恩を返さない人間も嫌いだ。
与えられたモノと同等のモノを与えた側に返すべきだ。
金も時間も愛も全部そうだ。どれも独り占めしてはいけないし、どれも独りでは満たせない。

でもどうだ、俺の顔はその「独善的」で「恩を返さない」一番嫌いな人間にそっくりだった。
結局のところこの気持ちは同族嫌悪で、自分以外が好き勝手やっているのが我慢できない子供じみた癇癪の一つに過ぎなかった。

 

最近その事実にようやく気付いて、少し自分に失望した。
子供のころから積み上げてきた多くの物語は俺のその在り方を否定しない。ただ、冷めた目で見つめるだけだ。
誰かに「それでいいのか?」と常に問われているような気がする。俺はいつも「ダメだと思う」と返す。
いつも答えはない。

 

静まり返った部屋には俺一人。モニターには誰かの配信が映っていて女が何か喋っているがよく聴き取れない。さっき作ったハイボールは氷が融け切って少し温くなっていた。

別れた恋人のことを思い出した。
もう話さなくなった友達のことを思い出した。
泣いた母親のことを思い出した。

 

もう外では日が昇っている。みんなに今日も背を向けて寝る。まだ、顔は見れない。