ガラスの大地

詩や日記を書きます

ぬるいぬかるみ

 

 

 

僕は部屋から出られない
自分の部屋から出ることができない
美しい記憶を作りたくとも、やさしさでぬかるんだこの部屋に足をとられて
いつだってベッドの上で泣いている
かつて祖母の家から見たあのオレンジ色の街灯が恋しい
寝苦しい夜には羊の代わりに天井を走る車の影を数えていた
古いエンジンの音と容赦ない排気ガスの匂いを今でも思い出せる
父と母は祖母の家を嫌っていたが、僕はそれでも、ひたすらに心地よかった
日本では感じられない、人目を憚らないという彼の国の当たり前が、新鮮に
そして強烈に僕の心を育んでいた

 

僕の部屋の天井には何も映らない 街灯も月明りも
暗闇の中で虫と鴨の鳴き声ばかりが響き、朝5時には発情期の鳩に起こされる
子供のころは受け入れられた世界の自由さは、今では傲慢さになってしまった
歳をとればとるほど、知れば知るほど、世界には許せないものが増えていった
知らない誰かの無責任な一言に知らず腹を立てていたり、母の小さな挙動にいらついていたり 彼女の無邪気な一面に怒りを覚えてしまうこともある
でも恋に落ちたことなんてない
対象のことを考えれば考えるほど、優しくすればするほど、僕の脳みそはバグっていって、好きなんだと勘違いしていく
勘違いに勘違いを重ねていけば自分の本心はどんどん曇っていく

ハリボテの心は砂山でやる棒崩しだ 初手でたくさんの砂を搔き捨てるから、棒はすぐに倒れる 

いいことか悪い事かなんてわからない その最中はどれも本心だろうし

こうやって感情を決め付けて自分を慰めて はは おもしろいね

 

母と父の大きな愛と優しさで育てられたという自覚があり、そのせいでいつまでも子供のままである
両親は当たり前に何も悪くはない
この部屋の空気が雨が降った夏のグラウンドみたいにぬかるんでいるのは、何もかも、僕の責任だ
ただ、なんだか足を取られている気がする
来年には家を出たいと考えているが、多分難しいだろう
気力や性格の問題ではなく、純粋に金がない(悲しいことに)
この実家の甘美な束縛から抜け出したい 
自由という空白を味わいたい
人と社会の断絶を体験したい 

どこまでも僕は個人でしかないことを全身全霊で自覚させてほしい

一人暮らしなんてみんなやっていることだ そんな難しくないはずなのに

理想と現実はいつまでも乖離し続けている

そして原因の一旦は明らかに僕にある

でも一人で生きたい
そして愛する人間と幸せになりたい
そこまで傲慢な考えだろうか 多分、世界のほうがよっぽど傲慢で、無慈悲だ

うん、ちょうどいい きっとそれくらいでいい