肺を刺す2月の冷たい雪の匂いが僕を目覚めさせた。PCデスクの上には氷の溶け切ったアイスコーヒーが置かれていて、眠気覚ましに一気に飲み干したけれどまだ頭はボーッとしている。
窓の外を見やると昨晩から降り続く雪が、びしゃびしゃなものからふわふわなものへと移り変わっていた。予報では東京でも5センチ以上降り積もるらしいから、あの企業の説明会に行くのはやめにしようと思う。
僕は歯を磨き、顔を洗ってデスクの前に座って、昨日のあなたの言葉を思い出す。
「世界はたぶん、きっと、くそったれなままよ」
「命も物質も巡る連鎖の輪からは抜け出せないの。だからどう生きようと無駄なのかもね」
僕はそんな悲しいことがあってたまるものかと思った。
万物が流転するからって、森羅万象がそこ在るだけだなんて、生まれたことに意味がないなんて、そんなことは悲しすぎるから。
だから僕は夢を見る。きっとそれがこのくそったれな世界に残された、ただ一つのよすがだ。地球の裏側にまで届くよう叫ばせてくれ。僕は産まれてよかったと。
世界は幾千枚のタペストリーが折り重なってできた無限の博物館で、僕らはそれを織るしがない芸術家だ。誰もが夢を持ち、素敵な命を重ねる権利がある。命の意味こそ夢だ。
虹の上に登り、雲をソファにして、太陽と北風から生まれてから今までの話を聞こう。
巡り巡られる数億年の喜怒哀楽を全て僕らの讃歌にして。