ガラスの大地

詩や日記を書きます

感光

 

 

 

フィルムに小さなビオトープが写っていて、これが誰のものかは明白である。
巡り合わせに導かれた、私の、ものだ。
人生に必要な数々の言葉と経験を積み上げて作られた真っ黒なその自然は、光っている。
フィルム上には知らない言葉がある。経験したことのない出来事もある。どうやらこの先の私まで再現されているらしいが、しかし、知らないことなので理解ができない。

 

近づいてくるモノがいる。猫のようなしぐさでフィルムをのぞく。すごくきれいな横顔をした・・・・・・なんだろう。
これまた知らない物体なので何なのかわからない。ただ、すごくきれいだと思った。
ソレは錆びついた鉄色で、けれどやさしい肌色を内包していて、かつ紫色と空色の間でもあり、真っ赤な血潮の色でもあった。
その姿形はまるで小さなブドウだ。意思と感情を持っているように見えるソレは、僕の周りでけらけら笑っていた。
あまり不愉快ではない。そう思えた。そう思うことにしたのか?これもわからない。そう感じたことだけを覚えている。
ソレ(ソイツ?)はフィルムを持ち上げてこう言った。ソレは鎌首をもたげた。ブドウの房がくねりと曲がる。
「とるにたらない」
真っ先に覚えたのは落胆。その次に諦観。情熱はなかった。
ただ、毒にも薬にもならぬ小さな私の肉体に棘を、ソレは刺しこんだ。
罰だろうか。何に対する?見返りを求めたことに対して。何が悪い?何も悪くない、ただ、気にくわないだけだ。
囁き。聞こえもしない。聞こえるわけがない。鈍く鋭い小さな痛みがあった。

 

このフィルムは焼き捨てられない。
明日は昨日と同じ今日か?
水を飲む。飲み干す。和らぐような気がする。何が?言えない。
理解できていないことは言えない。言いたくないことは言えない。
言いたいことも言えないくせに。

 

ソレは朝まで私と一緒にいてくれたようだ。
私のかたわらに綺麗な玉を残していった。
逡巡。食べるか食べまいか。果実の形をしていた。
・食べてみるとすこしだけ苦かったが、大いに甘い果実だった。
・夕暮れに照らされる紫陽花のような美しい色なので、箱で保管した。
再びの逡巡。想像される結末はどれも甘美だが、欠点が一つだけある。
たぶん、二度とは触れられない。

 

落胆、諦観、恐怖。情熱は、少しだけある。